草の根から広がる教育イノベーション~教育共創研究所、発進!


こんにちは、ハバタクの長井です。
この記事を書いているころには、私たちが新しく設立した一般社団法人「教育共創研究所のWEBが一次リリースを迎えているころと思います。
今回のエントリーでは、「教育共創研究所」が何者なのか、今後この新法人で何を実現していくのか、について書いていきたいと思います。

◆設立の経緯〜地域に根ざした教育改革を

まずは事の発端から。ハバタク設立当初から私たちが強い関心を持っていたデンマークの教育に加え、オランダの教育もまた機会があれば見に行きたいと考えていました。そこへちょうどLEGO社(デンマーク)のカンファレンスへの招待がきたので、「せっかくだからついでに」とオランダへ寄ってくることにしました。それが今年(2012年)4月のことです。
オランダ行きにあたっては起業当時からお付き合いのあった、柏市の市議会議員である山下洋輔さんをお誘いしました。山下さんはもと教員、いま議員ということで、ビジネス畑から来た私とは対照的でありながら、この異なる知見の組み合わせが「なにか起こりそう」という期待をいつも高めてくださいます。結果、オランダの学校およびフューチャーセンターを視察する旅が成立したわけですが、これが今回決定的なきっかけとなりました。
正直なところ、オランダに行く前の私の認識レベルは、デンマークの教育と何が違うのかも分からない程度でした。どちらも小国であり、教育と福祉に力を入れている北ヨーロッパの国、というくらいです。しかし実際足を運んでみると、似ているようで当然さまざまな違いがあり、日本の教育にとっては大いに参考にできる点があるなと思った次第です。(このあたりは以前書いたエントリーをご覧ください)
教育の具体的な内容は以前のエントリーに任せるとして、根本的なレベルで私がオランダの教育が素晴らしいと思ったのは、「社会との接続が密である」という点です。もっと言えば、「(水害に代表されるような)土地の課題に一緒に立ち向かう仲間を育てる。育てる環境がなければそれを創る」という強い信念です。
かつて日本では、高度経済成長期に求められた「ソルジャー型人材」*を効率的に量産するために、中央に統制された素晴らしい教育システムが構築されました。それは時代の要請に合っていたし、その時代に育ち勤め上げた人にとっては幸せなことであったでしょう。しかし現代の日本は課題も地域によって千差万別ですし、経済状況もあいまって「こう育てれば幸せな人生を送れる」といった“正解”を国で統一的に示すことは難しくなっています。

*大きな組織内で、上意下達の命令を迅速に正確に遂行することに価値を置かれた人材像

オランダの教育を振り返ってみたとき、「日本でも地域に根ざした教育改革がもっと起こっても良いのではないか?」と強い問題意識を持つに至ったのです。これが教育共創研究所を設立したきっかけです。

◆地域×教育で起こっている悪循環

この問題意識を山下さんと共有しながら旅を続けていくうちに、焦点は「いま、地域単位で教育にイノベーションを起こすためのクリティカル・パスは何か?」というテーマになってきました。そこで、地域と教育を見渡して起こっていることを、次のようなチャートにまとめてみました。
※図をクリックすると拡大します。ちなみに、いわゆるPEST分析っぽい視点になっていますが、視点を借りただけなので意味合いは異なります

領域としては大きく「教育行政」「経済活動」「教育カリキュラム・メソッド」「地域社会」と4つに分けてみました。まず教育現場で起こってることについては「経済活動」と「教育カリキュラム・メソッド」の領域を御覧ください。

経済的でなく、継続的でもない運営が「イノベーションの芽」を摘む

ここでの「経済」とは単純にお金の話だけではなく、「活動が継続的なものになっていくために必要なコト・モノ」くらいの意味で使っています。
実は地域には民間の団体さんや学校の先生、熱心な地元企業さんなど、素晴らしい取り組みをされている多くのプレーヤーがいます。しかし多くの場合それらの試みはその人がいなくなってしまうと同時に終焉を迎えるといったケースが珍しくありません。理由は、これらの活動がプレーヤーたちの飛び抜けた心技体に依存しており、経済的には破綻しているからです。
結果として何が起こるかというと、その新しい教育の芽は再現性を確保することなく「伝説化」してしまい、後進に受け継がれることなく消えてしまいます。そうなると結局、営業マンを学校に派遣するだけの余力のある企業だけが教育商品を提供できることになり、真に地域の課題にマッチした教育の機会が失われる可能性があります。
では、なぜ教育現場では経済性を確保できないのでしょうか。もちろん答えはさまざまあり得ると思いますが、一つには教育行政が十全に機能していないことが挙げられます。教育行政がやるべきことは、教育に関する予算(お金)と制度(人・時間)をメンテナンスすることですが、現在多くの地域では活発な動きができているところのほうが稀でしょう。
教育委員会は基礎自治体(市区町村)単位で設置されています。当然議会も基礎自治体(市区町村)単位で設置されているわけで、本来このコンビが地域の教育をドライブしていくことになっています。教育というと反射的に「文部科学省が…」と思いがちですが、本来はある程度の範囲までは基礎自治体の単位で教育を変えていくことが可能なのです。

議員に敬遠されがちな状況が拍車をかける

ではさらに、なぜ教育行政が不活溌になりがちなのでしょうか。ここには根深い問題がいくつか存在しています。「教育行政」と「地域社会」の領域をご覧ください。ひとつは、そもそも「教育」が相対的に人気のあるテーマでないということです。現在日本の多くの地域は人口構成的に年配の方が多く、彼らの興味関心はどうしても直接的に恩恵のある社会福祉やまちづくりに偏ります。結果、議員が当選するためには教育より別の政策を掲げたほうが有利ということになり、実際に教育政策で当選する議員は非常に数が少ないのが現状です。
もうひとつの問題は、教育に熱心な議員が存在した場合に起こります。議員が自治体にアクションを促す機会として「議会質問」があるわけですが、この機会をフルに活用しようとすればするほど、「ネタが不足する」事態が発生します。有効な質問を議会に提出するためには相当な事前調査と理論武装、および文書作成が必要になり、それは基本的に議員の公務のなかで行われる以上、時間的な限界が存在するからです。

結果としていくら熱心に教育改革を進めようとしても、議会のなかで取り扱われるボリュームは相対的に小さくならざるを得ず、「孤独な戦い」を強いられることになります。場合によっては、議会を説得するだけの理論武装をするリソースがなく、自治体を動かすまでに至らないかもしれません。そうなると、期待を込めて応援していた有権者が離れていき、ますます教育行政に対する不信感が募っていくことになってしまうのです。

◆悪循環を断ち切るには地方議会議員へのサポートが不可欠

こうした悪循環を断ち切る介入点はどこにあるのか。私たちが第一の介入点として狙いを定めたのが「地方議会議員」でした。全国には約1,800もの自治体があり、そこに属する地方議会議員は36,449人(2011年2月13日)います。このなかで教育に関する政策を推進しようという志のある方に、上記のようなボトルネックを解消する手段を提供するのが教育共創研究所の最初のミッションとなります。

実行することはシンプルです。議会のなかで孤立しがちな議員を助けるためには、議会の外とのネットワークとの接続が有効だと私たちは考えています。具体的には、同じように教育の志をもった議員同士の、ローカルとローカルでつながるネットワークです。このネットワークのなかでは、議会質問に活用できる情報のシェアおよびディスカッションができるようになります。

◆議員向けフォーラムのページはこちらです。
 ※投稿は議員に限られますが、一般の方も閲覧可能です
◆一般の方も使用できる、よりオープンな議論の場もご用意しています。こちらです。

例えば千葉県柏市である議員が地元の産品を使った食育構想について質問を行い、市からの回答を得たとします。いままでであればそのやりとりは柏市のWEBに議事録として掲載されはしますが、それほど注目を集めることなく過去のものとなっていくでしょう。もし私たちのサービスがあれば、その議員は教育共創研究所のWEBに質問・回答内容を転載し、他の議員にシェアすることができます。そこには同じ課題を抱えた他の地域(例えば大分県別府市)の議員がいるかもしれず、その議員にとっては柏市の先行事例は非常に重要なインプットになります。

ここで重要なのは、議会を「通った」ものだけでなくむしろ「通らなかった」ものかもしれません。なぜなら、議会で可決され実際のアクションに結びついた場合、新聞や講演会などで世の中に公開される可能性があるのに対し、「失敗事例」は公開される可能性が極めて低いからです。しかし失敗事例ほど他の議員にとって有用なインプットはありません。なぜ「通らなかった」のかを考察したり議論したりすることで、より強力な理論武装が可能になるからです。
また、上記のようなWEB機能だけでなく、国内外の最新の事例を紹介するプラットフォームにもなりたいと考えています。こちらはセミナーやツアーといった形式で、本物に触れる体験のバリエーションを増やしていきたいという想いからです。将来的には、WEB機能を活用した結果として教育改革を実現した議員を講演者としてお招きするなど、知見の循環を促進していきたいとも考えています。

◆セミナー・ツアーの情報ページはこちらです。
※順次更新予定です

この第一の介入点だけですべてが解決されるかどうかは分かりません。しかしいままでお会いしてきた地方議会議員の方々は教育に熱い想いを持ちつつ、上記にあるような状況のなか悶々とされていることも多いように思いました。今回提供するサービスが教育イノベーターとしての地方議会議員をエンパワーし、悪の循環を断ち切り、以下のような正の循環を生み出せたらと考えています。

◆まとめ〜トランスローカルな共創ネットワークの可能性

最後に、私たちがこの法人の名称に込めた「共創」について説明して、このエントリーを終わりたいと思います。何かコンフリクトが起こったとき、必要なのは「犯人探し」をすることではなく、起こってることをまずは受け止め、全員で解決に向けて動くことが大事だと考えています。上に挙げた悪循環の図を見ても、別に誰も進んで悪いことをしようとする人がいるわけではありません。子供たちの未来を共に創る仲間であるはずなのです。

文部科学省が変わらないと無理だよ」と嘆く時代は終わりました。地域でできることは地域で解決していくことこそが、子供たちに見せるべき背中だとも思います。市民・行政・教育現場が同じ方向を向き、解決にあたり、なおかつそれがトランスローカル*なネットワークによってスピーディに他の地域のためにもなっていく。そんな「同時多発的な改革を推進するための共創ネットワーク」をつくっていきたいと考えています。

*中央を介すことなく、ローカルが他のローカルとダイレクトにつながっている状態

教育共創研究所はまだ立ち上がったばかりの団体です。皆様のご理解・ご支援をどうぞよろしくお願いします。
何かご質問がありましたら、以下のWEBのお問い合わせフォームからお願いいたします。
◆一般社団法人 教育共創研究所のWEBはこちらから

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>