大分発、多文化共生社会への挑戦 ~「学府としての深み」×「国際化」、そして「生き方」から捉えてみる~


立命館アジア太平洋大学(以下、APU)。2000年4月に別府の山上に開学し、12年が過ぎた現在、着実に「国際的大学」としての認知が広がっています。
先日訪問させて頂き、とても多くのことを考えるキッカケとなったので、記事としてまとめようと思います。

◆APUを概観する


別府の山上に位置する気持ちのいいキャンパス


まずは、以下にAPUの開学宣言の一部を紹介。
「世界各国・地域から未来を担う若者が集い、ともに学び、生活し、相互の文化や習慣を理解し合い、人類共通の目標を目指す知的創造の場」
とあります。
この中でAPUに特徴的なスタンスは、「何国人であるかを問わない」こと。日本人に限らず、日本の国益に限らず、上記の精神に合致する人を育て、より良い未来を創造していきたい、という点。
このオープンな哲学には、とてもシビれます。

そんなAPUをデータで捉えてみると、
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学生数: 5980人
国際学生: 2692人(45%。81カ国・地域)
休学者数: 約400人/年間(6.7%)

教員数: 166人
外国籍教員: 78人(47%)

国際学生の内訳は、上位から、
中国800人、韓国632人、ベトナム205人、タイ171人、インドネシア153人、台湾68人、アメリカ59人、ミャンマー44人、バングラデシュ38人、スリランカ36人

※いずれも、2011年時点
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日本国内の大学の中では、ダントツに国際化が進んでいることがわかります。
キャンパスをぶらっと歩いていても、これは実感できます。ここまで多国籍の人たちが日常で共生する場所はとても珍しい。
中でも、アジア諸国の学生が上位10カ国のうち、9カ国を占めているのも特徴的です。
(キャンパスで会話した中国人留学生のA君は、欧米の学生との交流・先進事例がもっと学べたら嬉しい、と前向きな課題認識。ちなみに、学業成績はベトナム、インドネシア人が高い傾向にあるらしい。)

このような国際的大学を実現した制度面の工夫としては、以下が挙げられます。
・日本語能力を必要としない入学・学修(全授業の80%を日本語と英語の両方で開講)
・入学試験・入学制度(海外事務所で入試実施のため、来日不要。9月入学も受け入れ)
・国際寮「APハウス」の設置(最初の一年は全寮制で多文化交流。二年目以降は別府市内で地域交流)
◆「学府としての深み」×「国際化」で捉える大学間競争
大学訪問時には、ベトナムウィークを開催中

グローバル環境を実現し、就職率も高く、一見敵なしのようなAPUでも、やはり色々な課題があります。
最も大きいと感じるのは、「学府」(学問をする人々の集まる場所)としてのあり方。APU発の世界に通用する学術的な成果は、中々出てきていない現状もあります。
学府としての深みは、ものごとをどこまでディープに「探究」できるかにも繋がってきます。
このあたりをずっと注力してきた東大・京大をはじめとした既存の大学が、グローバル30の流れの中で国際化を進めていこうとしています。
まずは「国際化」を徹底的に進めてきたAPU、「学府としての深み」を持って「国際化」を進めていく各大学。ここにアジア各国の大学も入り交じってくるのが、これからの大学間競争の姿となってくるかもしれません。
アジアで実際に訪れた中では、香港大学・シンガポール国立大学は「学府としての深み」「国際化」の二軸共に、かなり面白くなってきています。このあたりの話も、追ってお話できればと思います。

いずれにせよ、選ぶ側にとっての選択肢が増えてきているのは、とても素敵なことなのだと思います。

◆「学び」を「生き方」につなげる

つまるところ、「どの大学が良いか?」「大学に行くべきか?」という問いは、その人のこれまでの原体験や進みたい方向=「生き方」によるもの。
成熟社会、正解のない時代においては、前述の二軸も、「偏差値」「国際化度合い」「学術論文数」といった指標も全て参考程度。両親や進路指導の先生の言葉も、大事に受け止めつつ、それも一つの意見。
グローバルに活躍していきたい人は、「国際化」は特に重要かもしれませんし、貧困について学びたい人は、その分野で学術的に優れている大学や、インド・バングラデシュなど貧困の現場に近い場所を選ぶのも一つかもしれません。
まだ見つからないという人は、まずは働き始めるのもよいし、(お金が許せば)とりあえず入ってみて考える、というのもよいかもしれません。(経済が伸びていれば、この最後の選択肢は合理的かも)

私立大学への学費は約140万円/年間×4年間=560万円前後。
この大きな買い物は、自分の意思でやりたいものです。

多様な国籍の人たちと共に学ぶ・遊ぶ・働く、という側面だけ切り出せば、国際的な大学への入学以外にも、沢山の選択肢がある時代。
上述の「大学間競争」は、もう少し俯瞰して、「大学」という枠を超えて、一人ひとりの「生き方」という視点から捉える時代が来ているのだと思います。

◆個人的にはこんなことが学べたら面白そう

一人ひとりのテーマをどっぷりと深く「探究」しながら、多国籍・多文化環境で「共創」できる場所。そんな学校があったら、個人的にはものすごく魅力的です。

例えば、「地球規模の社会課題を解決する」というテーマの探究は、まさにAPUのような多国籍・多文化で、フラットな哲学を持った大学の良さがダイレクトに出るものだと思います。
国際チームの実践体験として、海外現地に赴いて社会課題解決プロジェクトを行う、というカリキュラムが学部にあったり。(それも単発企画ではなく、研究内容と実践体験が有機的に結びついて年間カリキュラム化されているイメージ)

近年注目されている、「ICT4D(information and communication technologies for development。国際開発の文脈における情報通信技術の活用)」の分野が圧倒的に強い、という尖り方も面白いです。「ラーンネット・グローバルスクール」の炭谷さんが学長を務める神戸情報大学院大学の「探究 for Africa」はまさにこの良事例。
テクノロジーが世界を変える可能性は、まだまだ無限です。

また、「トランスローカルな地域コミュニティづくり」という視点も刺激的です。
これまでの閉じた地域コミュニティの枠が少し開かれて、若者が外に出ていったり、よそ者がコミュニティに入ってくる。
「よそ者・若者・バカ者」を触媒に、新しい風が吹き、地域と地域がメッシュに繋がっていく、トランスローカルな世界。
イノベーションを誘発する「よそ者・若者・バカ者」がどっと地域コミュニティに入ってきた別府の街は、これからの地域のあり方を探究する最高の場になり得ると思います。
例えば、観光学・環境学の学部における研究・実践として、別府の街との提携プロジェクトをぐいぐい進めていくなど。

、、勝手に色々書かせて頂きましたが、今回の訪問では、本当に多くの刺激を頂きました。関わって頂いた皆様、大変ありがとうございました。

これからのAPU、そして日本の大学の未来がとても楽しみです!

ハバタク株式会社

丑田俊輔

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