“起業五月病”を吹きとばせ – 世界を変えるための3つの働き方


起業して3年弱、これまでいろいろな人と出会い話す機会を得た。そんななかで言われて結構ショックだった言葉もある。たとえば
「(ハバタクの事業内容を説明したあとに感想として)でも儲からないよね、それ」
「(ある大企業に関する意見を述べたら)長井くん、君、なんか偉そうじゃない?」
などなど。3という数字は節目だとよく言われるが、企業としての立ち上げバタバタ期を卒業したこのタイミングでこうした言葉にナイーブになるのも、ある意味健全な「起業後の5月病」のようなものかもしれない。
上記の言葉の引用にしても、別にショックを受けたことを同情していただきたいわけではない。発言元はどちらも大企業で第一線級の活躍をする立派なビジネスパーソンだった。彼らの視点からすれば至極真っ当なコメントだったのだと思う。ただ、直感的に自分の視点とは違う、と思った。
こうした視点の違いからくる相互批判というのは、気をつけて見てみると世の中にあふれている気がする。たとえば、「おれたちが時代の先端を切り拓いているんだ!」と息巻くベンチャー企業に対して「そんな小さい規模で動いたって世の中は変わらないよ」と言い放つ大企業。それを横目に「企業って30年前の理論なんか参照してビジネスしてるんだぜ。勉強が足りないよ」と指弾するアカデミズム。適当にサボっている人は別として、それぞれの立場でベストを尽くしている人たちの間でもこうした批判は生じうる。
でも、実はそれってもったいないのではないか?
そこで、「人が働くモチベーションや、仕事に対するスタンスの取り方っていくつかのパターンにわかれるのでは」という整理欲求がムクムクと頭をもたげはじめ、3月にボストンで受けた刺激も加わって以下のような仮説を構築するに至った。今回は自分の頭の整理も兼ねて、この3分類の説明をしてみようと思う。
まずは下の表をご覧いただき、どんなキーワードにピンとくるか試してみてほしい。

まず縦の軸に並んでいる項目についての説明:

  • モチベーション
    • 仕事に向かうエネルギーの源泉。これが満たされれば満足でき、逆に満たされないと欲求不満に陥る。
  • 世の中へのインパクト
    • その仕事がどういった種類の影響を世界に与えるのか?これが達成されていないと、おそらく仕事としては不完全であり、評価されない。
  • 誰のために仕事をするのか
    • その仕事を届けたい対象。仕事を完遂したときに、誰に「よくやった!」と言ってもらいたいのか。
  • 仕事が評価される時間軸
    • 仕事の成果が顕在化するまでの時間。あるいは「ひと仕事」の長さ。
  • お金の稼ぎ方
    • 誰が、どんな関係性で経済面を支えてくれるのか。
  • ありがちな落とし穴
    • その働き方を突き詰めていくと陥る可能性のあるネガティブな状態。

パターン1: Artist/Scientist型

3分類の1番目はArtist/Scientist型(以下、AS型)と呼んでみたい。その名の通り芸術家や研究者などに多いと思われる。このタイプの仕事とはずばり「新しい世界(の見方)をつくる」こと。アインシュタインの相対性理論、バッハの対位法、デリダの脱構築などはすべて「この世界をどう見るか」という問いに対して新しい視点を提供した。自覚的であったかどうかは分からないが、並々ならぬモチベーションがなければこれらの成果にはたどり着かなかっただろう。

このタイプの仕事は基本的に「人に褒めてもらいたい」といった次元を突き抜けている。相対するのは自然の摂理や理論そのもの、時代によっては「神」といった概念で表されるものであろう。実際、古代の芸術というのは基本的に自然をいかに模倣し、神の創造性に近づくか、というのが大テーマであった。

必然的に、ひとつの仕事を完遂するまでの時間は長くなる傾向にある。たとえばフェルマーの最終定理が完全証明されるまでには350年以上の時間を必要とした。参考情報だが、とある国立大学の数学科の教授が平然と「数学は100年単位で仕事をするんだから、おれの代で成果が出るかは分からないよ」と言い放ったという噂も聞いたことがある。

人の一生では成果が追えないような仕事なので、パトロン的に継続的な経済支援ができる立場の主体が必要になってくる。代表的なのが国や大学、財団などだろう。ただ環境が閉鎖的になったり、分野が専門特化しすぎることで、ややもすると「世間的な価値観や道徳観から完全に浮いてしまう」という状態にもなりかねない。

※これも参考だが、最近STeLAのような団体が理系学生を対象としたリーダーシップ教育を実施したり、文科省が博士課程を中心に実践型リーダー養成事業を展開していたりするのはこうした課題への対応活動とみることができる。


パターン2: Designer/Engineer型

2番目はDesigner/Engineer型(以下DE型)である。ここでいうデザイナーやエンジニアは日本語のそれより広い意味で捉えたい。つまり「世の中に役立つものを『はじめて』生み出す」立場の仕事である。それが形をともなうものか、無形のものかは関係がない。AS型が理論を打ち立てるのに対し、DE型は実践を伴った解を生み出す。以前参加したLEGO社のカンファレンスでジョン・マエダ氏が「Artistは問いを生み、Designerは答えを生む」と述べていたが、この対比も同じことを指摘していると思う。

このタイプのモチベーションはとにかく「新しいアイデアをカタチにしたい」という点に尽きるだろう。それがユニークで、かつ現実世界の何かの「解」となりえるという確信が仕事をドライブする。またこのタイプに特徴的なのは、それに共感する人同士のコミュニティが発生しやすいことで、投資家やクラウドファンディングといったかたちで経済が回っていくケースも多い。IT業界で盛り上がりを見せる「ピッチ」の文化はその典型だろう。

DE型の仕事の向かう先は、当然目の前のお客さんがいるケースもあるだろうが、基本的には「そのうしろの社会課題」であることが多い。たとえばTable for Twoの場合、「先進国と途上国の間にある食の不均衡を解決する」というミッションのもとに共感が集まり、正会員費を払う人、協賛金を払う企業、社食でTable for Twoのメニューを注文する人などが存在する。彼らはいわば社会課題に一緒に立ち向かう仲間なのだ。

※社会課題というと重苦しいイメージがあるけれど、たとえば町工場のエンジニアたちが生み出したこんなiPhoneケースのアイデアが共感を生みクラウドファンディングであっという間に生産資金が集まった例もある。隠れたスマートフォン活用のニーズを掘り起こしたという意味で、社会への洞察の鋭さは遜色ない。

「現実解」を生み出すプロセスは試行錯誤の連続であり、AS型ほどではないにせよある程度の時間が必要とされる。前述のピッチで生まれるようなITサービスも数年かけて有効性を検証し、ダメなら撤退、というスクラップ&ビルドが繰り返されている。社会課題解決を掲げるNPOなどは、数十年という歴史をもつ団体も少なくない。容易に成果が計測できるとは限らないこのタイプの仕事は「いかにミッションを掲げ、共感を集め、応援されるか」にかかっているといっても過言ではない。

これが一歩間違ってしまうと、なまじ作る力があるだけに重宝されてしまい、器用貧乏な状態に陥っているケースもしばしば見受けられる。

パターン3: Business person型

一般的にはこのタイプ(以下BP型)が一番想像しやすいのではないだろうか。いわゆるビジネスのルールに則って動く仕事である。「モチベーションは売上や利益の最大化」であり、言い換えれば「市場原理にうまく乗せて影響を広く行き渡らせる」ことに喜びを見出す。必然的に、世の中に対する量的なインパクトはこのタイプの仕事が担うことになる。

シンプルに「提供価値と対価」のルールに則るからこそ波及範囲も波及速度も最大化できるが、その性格上「商品/サービス提供者と消費者」の関係から脱却することは難しい。また上場企業をはじめとして大きな組織になればなるほど管理の重要性が増し、四半期ごとの決算で成果を求められることも多い。この2点が合わさると近視眼的になりがちであり「とにかく目の前のお客様が満足してくれればいい(その先は知ったこっちゃない)」「とにかく高く/たくさん売れればいい(来期以降のことは知ったこっちゃない)」といった経済至上主義的な態度が慢性化する危険もある。

最近出版された紺野登氏の「利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか」でも指摘されているように、事業の利益だけでなく目的にフォーカスすることで長期的・継続的な成果を出していく考え方がより求められている時代でもあると個人的には思っている。



3分類を俯瞰してみて思うこと:

まず確実に言えることは、この3つの間に優劣や良し悪しがあるわけではないこと。大事なのはお互いの視点を知っておくことだと思う。どれも世界を変えるインパクトを生み出す仕事であり、矜持をもって仕事をしている人同士が出会った際、こうした整理ができていればお互いにリスペクトできる関係を築けるのではないか。

また、この3分類は一般的に職業名で連想する分類とはまた少し違う、とも思う。たとえば大きな組織であれば部署によって適するタイプが違うかもしれないし、同じ研究者という肩書であっても人によって3分類のうち属するタイプが違うかもしれない。


次に、一番不幸なのは「縦のラインがズレている」ことだ。たとえばDE型の仕事を志向する人がBP型の仕事を要求する大きな組織でパッケージ商品を売りまくるようなミッションを与えられてもやる気が起きず、ほどなく辞めてしまうだろう。逆にBP型でガンガン売上を積み上げていきたいという人がAS型の研究活動を求められたら意気消沈しそうな気がする。もちろん個人の成長のために苦労する期間をあえて過ごすのであればまったく問題はないが、実は日々働いているなかでもこうした不整合を内に抱えている人は少なくないのではないかと思っている。今一度、上の表を見ながら「自分はどこにしっくりくるのか?」と考えてみてはいかがだろうか。

最後に、ハバタク自身はどうなのか、という話。現時点では間違いなくDE型に当てはまると自覚している。クリエイティブ集団として、世にファーストケースを生み出すというミッションは今後も変わらず持ち続けたいポリシーである。

ここで、冒頭の言葉を振り返ってみると、こういうことだろう。

「(ハバタクの事業内容を説明したあとに感想として)でも儲からないよね、それ」
→ハバタクの事業はビジョン・ミッションありきで組み立てられており、売上と利益の最大化が最優先事項でないため、BP型の視点からするとある種の気持ち悪さがあるのだと思う。
「(ある大企業に関する意見を述べたら)長井くん、君、なんか偉そうじゃない?」
→これはハッとさせられた。DE型の思考では、他者(社)は「一緒に事を起こす仲間でありえるかどうか」が大事だ。「お金をくれるお客様」かどうかは最優先事項ではない。そうすると無意識のうちに、相手が大企業であろうが個人であろうが、「チャレンジする気があるのか」「どんなビジョンを描いているのか」といった視点で会話をしてしまうのだと思う。



その一方、4期目に入る企業として、世の中へのインパクトを提供する責任感も徐々に高まっている。その意味で、「解」の見えた事業に関しては来期に向けてBP型の視点を持ち、展開をしていく必要があるだろう。さらに一方では、個人的にはAS型の研究も非常に興味があり、ハバタクのクリエティビティに貢献できる理論や知見を構築できたらいいのに、、とも思っている。



終わりに

この考察はまだまだ粗いが、ここに至るまでに何人かのディスカッションパートナーの助けを借りた。この場で御礼申し上げるとともに、またお付き合いいただきたいというお願いもここに付記させていただく。

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