MIT発の英語プログラムをハバタクがプロデュースする理由


こんにちは、ハバタクの長井です。

毎日暑いですね!

日本の夏の暑さはいろいろな要因が混じっているのだと思いますが、ベトナムにいる小原をして「ベトナムより暑い」と言わしめるほどなので、日本の夏もなかなかのものだな、と妙な感心をしている今日この頃です。

さて、暑い夏にはアツい企画がつきものです。今回は、弊社主催で現在進行中の英語プログラムについて書こうと思います。

>>「世界に羽ばたくネイティブ脳を育てよう」プログラム概要ページはこちら
2013年12月追記:第2回の開催が決定しました。概要はこちらをご覧ください

すべてはボストンから始まった

いきなり白状しますと、私はそれほど英語が得意ではありません。
とくに会話(speaking/listening)には一定のコンプレックスを持ち続けており、ネイティブスピーカーが加わると会話に食い下がるのが精いっぱい。
仕事で使うぶんには度胸と愛嬌でなんとかなってしまうものの「もっと英語で自由に自分を表現したり、情報収集ができるようになったら世界が広がるのに」とは常に考えていました。
そうしていたところ、今年3月に実施したボストンツアーが大きなきっかけをくれました。

ボストンツアーの一幕。マサチューセッツ州議事堂前にて。

参加者のティーンネイジャーの女子たちは驚くほど優秀でビジョンにあふれておりプログラムを満喫していましたが、最終日の振り返りでほぼ全員が「もっと英語コミュニケーションを上達させたい…!」と口をそろえたのです。
ほぼその場で「私たち本気なので、夏には英語のプログラムをやってくださいね」と半強制的に約束させられた(させていただいた)かたちになり、帰国後もどうしようかと考えていたところ、今回講師をしてくださっている白川寧々さんと出会うことになりました。こうしたタイミングというのは合うときは合うものですね。
こうした経緯で、「将来世界に羽ばたきたい高校生・大学生」を対象に、このプログラムの企画・実施プロジェクトは動き出しました。

MIT女子、白川寧々さんと出会う

白川寧々さんとは、ハバタクが昔からお世話になっている知人を通して出会いました。彼女はMITに通っている関係でボストン在住であり、実は前述のボストンツアーの時点でものすごいニアミスをしていたのですが、直接はお会いできていませんでした。帰国後に「日本で英語のプログラムをやりたがっているから、ちょっと話聞いてあげて」ということでSkypeでやりとりを始めたのですが、まず彼女の経歴がとてもユニークでした。

エネルギッシュにワークショップを進める白川寧々さん。
  • 中国に生まれ、小学校で日本に来て日本語を学ぶ
  • 国内の女子中高に通い、ドメスティックな受験コースに乗るかと思われたが、受験期に方針を急転換して米国大学を受験、トップ大学の1つであるDuke大学に進学
  • この際、英語に関してはほぼ独力でネイティブレベルにまで上達
  • 大学卒業後はビッグ4の1つであるコンサルティングファームに就職、多言語能力(英語・中国語・日本語)を活かして活躍
  • その後、MBA取得のためにMITスローン(ビジネススクール)に入学、いま1学年と2学年の間の夏休み中
  • 教育分野での起業を目指しており、本件と並行して米国教育ベンチャーでインターン中
ハバタクの持論として「人生を変える刺激(=圧倒的な原体験)は本物と出会うことで生まれる」というものがありますが、彼女の生き方は間違いなく世界に羽ばたきたいと考えている若者に刺激を与えてくれるだろうという確信がありました。

また、彼女のユニークなところは「日本の英語教育はもはや社会課題として解決すべきものである」とMITスローンの社会貢献プログラムに応募・提案し、公認を受けているところです。ちなみにその際にMITに提示した内容がこちら。

  • 日本における英語教育の年数:10年
  • 日本の英語教育市場規模:推定3兆円
  • 日本人の平均TOEFLスコア:65/120
  • 日本のTOEFLスコア順位:140/150カ国中(アジア最低)
  • 日本の英語教師のTOEFLスコア:50/120
  • 参考:米国大学受験で要求されるTOEFLスコア:100/120
こんなに時間とお金をかけているにも関わらず、英語が苦手でありつづける日本(人)。独力で英語をモノにした彼女にとって「何かがおかしい」という問題意識が常にあったそうです。弊社小原が以前書いたエントリーで「NATO(No Action, Talk Only)と呼ばれる日本人」という話がありましたが、ミクロなレベルでいうとこうしたコミュニケーションの苦手意識がもたらすインパクトも相当程度あるのでは、と思わせられます。
ともあれ、こうした問題意識を背景に日本へ舞い戻ってきた白川さんと、ハバタクがタッグを組んで今回のプログラム設計に乗り出しました。

英語とはスポ根である

「華やかな経歴をもつ英語ペラペラの女性講師が日本に舞い戻ってきてプログラムを開催」と聞くと、正直、鼻持ちならない印象を持つのが自然な反応だと思います。「そりゃあなたはできたかもしれないけどさ」と。
しかしそこが彼女の面白いところで、彼女の信条は明確でした。
「英語ってスポ根なんですよ。楽する方法なんかないです。でも、やればかならず上達します」



英語に近道なし。ただ、昔より無料で活用できる素材も増え、学びかたのノウハウは蓄積されているため、それを広く英語学習者に伝えたい、というのが設計上の要諦でした。
整理すると、プログラム設計上の方針は3つにまとまりました。
  1. 「英語を学ぶ」のではなく「英語の学びかたを学ぶ」場にする
  2. 徹底的にアウトプット志向のワークをおこなう
  3. 題材はネット上の無料の素材のみ用いる
ひとつずつ簡単に説明したいと思います。

1. 「英語を学ぶ」のではなく「英語の学びかたを学ぶ」場にする

いわゆる”learn to learn”を地で行くスタイルです。たった5日間でネイティブレベルに英語を鍛えることはできませんが、そこまで到達するために必要な方法を身に付け、「これならいけそうだ」という根拠ある自信をもってもらうことがゴールとなります。そのために、ワークショップ(体験)→何を学んだか(種明かし)→独力でおこなう場合のノウハウの伝達、という3ステップが日ごとの大まかな流れになりました。

2. 徹底的にアウトプット志向のワークをおこなう

ワークショップの部分については、実際に参加者がアウトプットをして振り返りができる状態までもっていきます。たとえば以下のようなものです。
  • カードゲーム形式を用いた「オチのあるセンテンス作成&発表」
  • アニメの動画とスクリプトを使って「チームでおこなうアテレコ&上映会」
  • MIT生が体を張って制作している講義ビデオを観て「論旨の整理と疑問点のディスカッション」」
アテレコ(声の吹き込み)ワークの風景。演劇的要素は語学学習の効果を高めるという研究結果もあります。
自力でアウトプットすることが一番の学びになることは多くの方が賛同されるのではないかと思いますが、その際に重要なのは難易度と達成感のバランスです。参加者をいかにいわゆる「フロー状態」にもっていくか、という点が設計上のキモでした。

3. 題材はネット上の無料の素材のみ用いる

アニメ、評論番組、お悩み相談、大学の講義、ニュース、TED、etc…いまやネットには無尽蔵の、しかも良質な英語素材がアップされています。これらをフル活用すれば、英会話スクールに払っている高額の受講料の大半は不要にできる、というのが白川さんの持論です。とはいえ、素材の選別眼は誰もが持てるわけではなく、ネイティブレベルの語学力と、自称オタクの彼女が蓄積しているコンテンツ知識があってこそ可能なプログラムです。プログラム内で用いるのはごく一部となりますが、受講者にはそれらのリストはすべてシェアし、独力での学習を支援することにしました。

世界へ羽ばたくためのジャンプ台に

設計フェーズが終わり、7月の末からいよいよプログラムの提供が始まりました。5日間がセットで1期分とし、全部で5期まで実施しています。このブログを書いている時点では第4期が始まったところです。
予想はしていましたが、参加者のビジョンの高さとモチベーションの高さは驚くほどです。すでに海外留学すると決めていたり、将来世界を飛び回るような仕事がしたいと語る高校生たち。原文のまま資料を読みこなして学術の分野でもっと活躍したい大学生。それぞれの目標をもちながらさまざまな年齢の人々が同じ場に集まり、ワークショップを通して一緒に学んでいく。その熱気に押されながら、何とか応えようと頑張って運営をしています。

ディベートワークの準備風景。主張の組み立てや読解にはピラミッドストラクチャーが欠かせないということで、高校生・大学生に関わらず基礎を学んでもらいました。

まだ第2期までのアンケートしかありませんが、内容については高い評価をいただいており
  • 総合評価(あなたにとって有意義でしたか?)→ すべて「とても有意義だった」(最高点)
  • 学びのインパクト(将来への考え方は変わりましたか?)→すべて「変わった」
と、うれしい限りです。単純に英語を勉強した仲間ということではなく、将来にわたって刺激を交換し合える仲間として付き合っていきたいと私のほうがむしろお願いしたいくらいです。

「”ネイティブ”がそんなに偉いわけ?」という声に対して思うこと

「別に英語なんてただの道具じゃん。話して通じればそれでいいんだよ」という主張があります。実は、私もその主張には反対しません。ではなぜこのプログラムでは「ネイティブ」をタイトルに掲げているのか?

ここでは「ネイティブになろう」ではなく「ネイティブ脳を育てよう」であることが重要だと考えています。ネイティブレベルでコミュニケーションができるようになることはあくまで結果であって、イングリッシュスピーカーがどのように情報を捉え、物事を考え、議論し、アクションしているのかを知り、自分のなかでシミュレーションすることが重要なのです。言い換えると「英語という言語にdeep diveすることで英語圏の文化・思考様式を身に付ける」ということです。こう考えると、真の意味で共創的なアクションを起こそうと考える場合には、やはり言語の問題をないがしろにはできません。
好例として私が思い出すのは、IBM時代に知り合った米国からの駐在員たちです。彼らは日本支社をマネージするために来日してしましたが、そろって流暢な日本語を話し、日本の会議のやりかた、コミュニケーションの癖まで熟知していました。サムスン社の有名な「地域専門家制度」などはさらに突っ込んだやり方かもしれません。いずれにせよ、「自分はネイティブじゃないんだからネイティブレベルになんかなれっこない。なれなくても仕方がない」と思ってしまった瞬間に、将来の可能性の少なくない部分が閉じられてしまうのではないか、と私は考えています。
そういえば、別のプロジェクトでシンガポールからの留学生が言っていた言葉が印象的だったので引用します。「私は日本のアニメに出会って日本が好きになり、留学したくてここに来ました。日本語の勉強のためにスクールにいったことはありません。日本語はアニメですべて勉強しました。本当に好きなことならマスターできるんです。ところで、日本の方々はいつまでも英語が上手になりませんね?」(もちろん日本語でのスピーチです)

問題解決言語としての英語

最後に、このTED Videoをシェアして今回の記事を終わろうと思います。



ジェイ・ウォーカーが語る世界の英語熱
http://www.ted.com/talks/lang/ja/jay_walker_on_the_world_s_english_mania.html

この動画のなかで彼が話しているのは、英語が「世界規模の問題を解決するための世界規模の会話」に用いられるようになっている、という現状です。たしかに好むと好まざるとに関わらず、その文脈での英語のポジションは日々強まっています。「世界規模の会話」に飛び込みたいと考える人であれば、おのずとやるべきことは明確になるのではないでしょうか。

私は別に英語礼賛をしたいわけではありません。すべての言語に役割はあると私は信じています。その意味で日本語の重要性が低くなることはありえません。また、プログラミング言語や身体言語、音楽やアート、数学など、あらゆる言語が何らかを表現・実現するために存在している言語なのだとすれば、「英語の一極化」といった話とは正反対に、私たちは「言語の多極化」の時代に生きているのかもしれない、とも考えています。この点は、以前別の記事で書いたCreative confidenceの件とも関係してくるなあ、と思い至りましたが、長くなりますので別の機会に書こうと思います。

最後は少し話が大きくなりかけましたが、まずは自分の足元から。ビジョナリーな参加者の方々に刺激をもらいながら、自分の英語についても精進したいと思います。

それでは、今回はこのあたりで。
お読みいただきありがとうございました。

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2013年12月追記:第2回の開催が決定しました。概要はこちらをご覧ください

長井悠

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