フィリピンで始まっているSTEM教育革命 〜「フロー体験」&「つくりながら学ぶ」〜


フィリピンの首都マニラから南に数十分、Cavite Cityにある私立高校にやってきました。ここでは、STEM教育の新たな取り組みが始まっています。



STEMとは、Science, Technology, Engineering, Mathematicsの頭文字をとったもの。イノベーションを生み出せる人を増やすことを目的に、従来の科学技術教育、理数教育を統合・体系化したもので、米オバマ政権においてはSTEM教育の振興を優先課題の一つに掲げています。

この私立高校では、昨年からSTEM教育のクラスが新設されました。


写真の授業では、タフツ大学が開発した「ストップモーションアニメーション」のツールを使って”Global Warming”に関するアニメーションをチームで作成しています。コマ撮りした素材をつなぎ合わせていき、伝えたいメッセージをストーリーの形で表現していきます。

まだ新設クラスなこともあり、直接成績や進路への評価には繋がらないのですが、どの生徒も楽しそうに、そしてムービー作成に没頭しているのが印象的でした。授業の最初はどのチームも雑談したり、外国人である僕をちらちら気にしたりもしていたのですが、次第に周りの雑音が消えたように、創作活動に取り組み始めます。

ミハエル・チクセントミハイ氏の提唱する「フロー体験」を思い出しました。
フローとは、「夢中になって、我を忘れて、何かに取り組んでいる状態」であり、それが成長や幸福感に繋がる、というもの。
教育学では、このフロー体験を子ども時代にどれだけ積んだかどうかが非常に重要とも言われています。

このアプローチで有名なアメリカの「サドベリー教育」では、まずは子ども達を徹底的に遊び尽くさせ、フローを習慣として体に染み込ませた上で、初めて一人ひとりの授業計画を組み立て始めます。フロー体験に入りやすい体質になった子どもは、内発的動機に基づいて効率良く学習を進めるようになり、小学校6年間で教わる算数の内容を24時間で身につけてしまうケースもあるのだとか。

STEM教育クラスでは、この授業以外にも、MIT Media Labで開発された子ども向け教育用プログラミング言語「Scratch」で遊びながらゲーム制作を行う授業があったり、初心者でも簡単に試作・プロトタイプができるマイコンボード「Arudino」を用いてものづくりを行う授業があったりと、いずれも「手を動かし、つくりながら学ぶ」という哲学・体験が底に流れています。これは、MITのシーモア・パパート教授が提唱した「コンストラクショニズム(Constructionism)」という教育理論が土台となっています。「知的好奇心と探究心を持って創造的な活動に没頭している過程で、自ら知識を発見し、知識相互の関連付けをしながら体系を作り上げて行く」という考え方で、ハバタクが活用しているLEGO SERIOUS PLAY Methodの基盤にもなっています。

石原正雄氏


このような取り組みを主導されているのは、LEGOを用いた教育やロボット教育の分野で著名な石原正雄氏。MITやタフツ大学をはじめとする大学との共同研究を基礎として、ものづくりを通して、子どもたちにものごとの探究や問題解決の楽しさを伝えようと活躍されています。フィリピンに加えて、インドやシンガポールなど、アジア各国の教育機関でSTEM教育を実践する石原氏は、
所得や国籍・学校の偏差値に関わらず、子供達のものすごいアイデアにいつも驚かされる
ものづくりは、探究心や想像性、問題解決の楽しさ、自己肯定感、創造性、コミュニケーション・チームワークなど、多くの学びを与えてくれる
と語ります。
(これらものづくりを通じて身に付く力を、SCCIP (Self Esteem, Creativity, Communication, Imagination, Problem solving) と定義されています。)

物質的に豊かになった日本。
画一的な成功の道は次第になくなり、個々人がそれぞれの豊かさを見つけていく時代。
「体験」の価値が極めて高くなっていくと同時に、「地球規模の社会課題」「正解のない未来」を一人ひとりが知恵を持ち寄って解決し、創り上げていく時代。
理系教育に限らず、「フロー体験」や「つくりながら学ぶ」という考え方は、生きる上でのものすごく重要なキーワードになってくると思います。

このような体験の積み重ねは、一人ひとりの成長と幸せに、ボディーブローのように効いてくるはずです。

一方で、このような学びは、目に見え易い点数評価をしにくく、日本の大学の受験科目にもないため、なかなか思い切って年間スパンで取り入れにくい領域。
教員側の接し方も、「教える」から「引き出す」ことが求められるため、これまでとは違ったコンピテンスが必要となってきます。


既存の教育システムのリソースでは不足する部分を外側(地域や企業など)から取り入れたり、本記事でご紹介したような国内外での実践事例をインプットにしたりと、試行錯誤をしながら(まさに「つくりながら」)、国内でも一歩ずつ前に進めていけたらと、改めて思う時間となりました。
また、日本・フィリピン・シンガポール・ベトナム間など、国境を越えて共に創る体験」もどんどんデザインしていこうと考えていますので、このようなテーマにご興味ある方は是非ご連絡いただければと思います!

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